VTuber市場、5億時間視聴の壁を突破──“質”で勝つ時代へ

VTuber
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皆さんはバーチャルユーチューバーをご存じだろうか。YouTuberではなく、”バーチャル”な存在のYouTuberの総称として「バーチャルユーチューバー(VTuber)」と呼ばれる存在たちのことである。

厳密には「YouTuber」はYouTubeで活動するインターネット活動者のことであるが、現在ではYouTubeに限らず様々なプラットフォームで活動することも含めて「インターネット活動者全般」をさす言葉として「YouTuber」が定着している。そのため本記事においても「VTuber」として総称して取り扱うこととする。

VTuberたちとは一体どのような存在なのだろうか?

VTuberについて知らない読者からすると「そもそもYouTuberとVTuberとの違いとはなにか?」という疑問を抱くであろう。そのためまずはVTuberという存在について概要を簡単に端折りつつ記事を進める。

VTuberの起源について

VTuberの起源を明確に定義することは実は難しい。VTuberという存在を世に広め、貢献したのは「キズナアイ」が大きな役割を果たしたといえるだろう。

キズナアイYouTubeチャンネル:KizunaAI – A.I.Channel – YouTube

現在確認することのできる「キズナアイ」の最古のYouTube動画は2016年12日2日に公開されたものである。実際に投稿されたのは2016年11月29日とYouTubeで表記されているが、恐らくプロジェクト開始までの期間は非公開設定または限定公開設定になっていたものと推察される。

「キズナアイ」最古の動画:https://youtu.be/EoPFGj3uuYo

しかし、実はこれ以前からVTuberの原型となるプロジェクトは存在する。それが「ウェザーロイド Airi」である。

ウェザーロイド Airi(ポンコ):http://www.youtube.com/@weatheroidAiriChannel

株式会社ウェザーニュースが独自に開発し、自社番組で起用したVTuberである。YouTubeへの動画投稿や生放送の開始は「キズナアイ」よりも遅いが、実際には自社番組内で出演をしていたため「キズナアイ」の”先輩”という見方をすることができる。なんとその歴史は長く、2012年4月13日にウェザーニュースが放送する番組「SOLiVE」に出演した。登場時は2Dイラストであった。しかし、同年12月7日には3Dモデルで出演する。筆者はリアルタイムで視聴していないが、2025年現在の多くのVTuberたちの状況を考慮すると2012年の段階でここまで技術的に展開を進めたことには脱帽である。しかも運営するのがウェザーニュース社というのもまた、きっかけがなにかはわからないことの証左でもあるように感じられる。

もちろん、「ウェザーロイド Airi」が地球上のすべてのVTuberの始祖であるのか、起源であるのかについては異論があるかもしれない。なぜなら、原型となるプロジェクトはもしかしたら、現存しないのかもしれない。この点についてはこれから歴史と文化のアカデミックな「現代文化」の検証領域としての研究が必要であるように筆者は考える。

起源については定かではないが、爆発的に「VTuber」の存在が知られるきっかけとなったのは「キズナアイ」の登場が大きな要因であったことは間違いない。

また「VTuber」熱を加速させるきっかけとして「キズナアイ」と同時期に「輝夜月(かぐやるな)」、「ミライアカリ」、「電脳少女シロ」、「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」たちが台頭した。特に先述の活動者のことを『バーチャルYouTuber四天王』と呼称される伝説的な存在となっている。

「VTuber」たちの登場は当時のインターネット空間に大きな激震をもたらし、注目を集めた。時代はメタバースなどの新しい技術についての情報が一般に知れ渡りだすタイミングでもあり、時代が「VTuber」たちを後押しする要因になったのかもしれない。

日本国内での情勢

2025年6月時点での日本国内での「VTuber」としてイメージされることが多いのはanycolor株式会社が運営するVTuberグループ「にじさんじ」やカバー株式会社が運営する「ホロライブプロダクション」などがあげられることが多い。anycolor株式会社とカバー株式会社は多くのIPホルダーや企業とのタイアップ広告も多いため、「VTuber」について詳しくないけど、なんとなくキャラクターとコラボしている商品がコンビニなどで見かけるな、と感じられた読者の方が目にしたことがあるかもしれない。

「VTuber」たちは食品やインターネットサービスとのコラボレーションにとどまらず「ホロライブプロダクション」は2024年、「ロサンゼルス・ドジャース」とのコラボレーション企画も実施するなど様々な分野でのタイアップ広告が実現している。

ロサンゼルス・ドジャースとのタイアップについて:世界初!VTuberと「ロサンゼルス・ドジャース」とのコラボが決定。 「ホロライブプロダクション」とのコラボレーション企画「hololive night」解禁! | ニュース | hololive(ホロライブ)公式サイト

このほかにも多くの「VTuber」事務所、運営会社が存在し、様々なプラットフォームで活躍している。

少し前のデータであるが株式会社ユーザーローカルが2022年に公開したデータによると「VTuber」の人数が20,000人を超えたとの情報もある。

ユーザーローカル社調べ:

VTuber(バーチャルYouTuber)、ついに2万人を突破(ユーザーローカル調べ)|株式会社ユーザーローカル

2022年時点でのデータであるため、2025年ではさらに増加している可能性が高い。一方で視聴者側の可処分時間を考慮すると、「VTuber」に限らず、インターネット活動者全体で、視聴者の母数の奪い合いになりつつあるのではないかと筆者は予想する。

「VTuber」のライブ配信の総視聴時間の増加

StreamsChartsの発表によると、全世界の「VTuber」のライブ配信時間の総視聴時間が5億時間を突破したという衝撃的なデータを公開した。

この数字は「VTuber」が持つポテンシャルを明確にするデータの一つと解釈することができる。

StreamsChartsが2025年の第一四半期のデータをもとにした最新の市場解析をしている。

同記事:https://streamscharts.com/news/vtubers-q1-2025-report

データが示す「VTuber」の市場性

今回StreamsChartsが公開したデータは非常に興味深い、示唆に富んだものであるといえるだろう。なぜなら視聴時間の成長率についても同記事では触れているが前四半期に対して+14%の成長率となっており、視聴時間から「VTuber」市場がインフルエンサー市場(特にストリーマー部門※ライブ放送)全体を大きくけん引しているとの見方をすることができる。

前段で母数を奪いあっているのではないか、と筆者は述べた。しかし、今回のStreamsChartsが発表したデータによると「VTuber」は約6,000人(アクティブな「VTuber」とStreamsChartsが定義した活動者に限定される)に減少している。その反面、視聴者数が増加傾向にあるとの報告がなされている。これは「VTuber」が減少したことにより逆説的に”残った”「VTuber」へ注目度が集まる、行き場を失った視聴者がなだれ込む現象が起きているのではないかと筆者は推察する。大きな構造の変化が市場に起きている最中であることを予期させる。

「VTuber」を含めたインターネット活動者が増加に転じていた傾向にやや陰りが見えたと予測をしてもよいのかもしれない。なぜならば活動を視聴するための時間は有限であるからだ。地球の人口のうち、どのくらいの人数が視聴しているのか、正確な数値を算出することは難しいだろう。だが、母数が限られていることは明確である。つまり、活動者が増加して市場が活性化するほど”質”が求められるようになる。残酷なことではあるが、有限な時間を視聴者がどのように選択するのかは当然求められるため、自然なことだ。

いずれにしてもStreamsChartsが公開したデータは貴重なものであるといえる。収益を得るための手段についても言及されており、示唆に富んだレポートであるためぜひ、興味のある方は情報元を御覧いただきたい。

プラットフォームとしての「YouTube」

記事の最後にプラットフォームについて簡単に触れておきたい。ここまで「YouTuber」・「VTuber」という用語を利用してきた。これは「YouTube」での活動者をさす言葉であると記事の冒頭でお示した通りである。だが、2025年現在においては変化が起きつつある。

そもそもの歴史を紐解くと「YouTube」とは動画を投稿するサイトであった。これはもしかすると源流をご存じない読者の方がいるかもしれないので前提情報として述べる。もちろん、過去の技術の制約としてやむを得ないことであったことは事実である。当時を知る筆者としても動画をシェアするということですら革命的な出来事であったとあくまで主観としておきながらも添えておく。

日本では「ニコニコ動画」なども当時は公開されるなど、動画投稿文化が徐々に定着したのちに、生放送へシフトしていった。

実はYouTubeLiveとして生放送に対応をし始めたのはプラットフォームの中では比較的歴史が浅い。

そこで誕生したのが「Twitch」である。もちろん、ここでは世界的なプラットフォームとして触れている。「Twitch」は特にゲーム放送に特化したサイトとして人気を得ていき、現在では多くの日本人ストリーマーや「VTuber」たちも配信を行っている。

「YouTube」での生放送と「Twitch」での生放送には実は違いがある。例えば配信に必要なサムネイル画像の有無など、「YouTube」で行いやすい放送と「Twitch」で行いやすい放送など使い分けが求められる。もちろん、視聴者層も異なる。

生放送プラットフォーム争いに新たに「Kick」が登場し英語圏VTuberの一部が流入をしはじめている。「Kick」は2025年第一四半期において18%の伸びを記録するなど生放送プラットフォームとしての争いが激化する兆候が現れている。

ただし、ここでBunkaCast編集部として注意書きをさせていただく。「Kick」はオーストラリアに拠点をもつオンラインカジノサイト「Steak」の創業者が立ち上げたライブプラットフォームである。そのため「Kick」サイト内に一部オンラインカジノコンテンツも存在する

日本においてはオンラインカジノは法的に認められておらず、犯罪行為として摘発される可能性が大きい。そのため、安易に「Kick」に参入することを推奨することはBunkaCast編集部としては2025年6月時点においては明確にないことを表明する。これは放送者として、視聴者としての両面で安易にアカウントを作らないことを推奨するものである。最終的には自己判断であることは付け加えておく。

しかし、VTuberに限らず、「ニコニコ生放送」などから「Kick」への移住が一部進んでいることは事実であり、プラットフォームとしての地力を感じさせることは事実である。

今後の「VTuber」市場とは?

本記事のまとめとしては四半期単位における「VTuber」の視聴時間記録の壁として5億時間を超えた。しかし、一方では「VTuber」の数は減少しており”質”が求められる時代へ突入し、より競争が激化している傾向が見られることがStreamChartsによりこの度公開された情報から明らかになった。

プラットフォームとしても生放送という視点においては新たに「Kick」が名乗りをあげたことで大きな変化が起きる前触れのようなものを感じさせる時代へ突入している。そして「VTuber」というジャンルにおいては従来のバーチャル空間の中でのみコミュニケーションをとることなどからの脱却が図られつつあり、記事内で取り上げた「ロサンゼルス・ドジャース」の事例のようにリアルイベントとのコラボレーションなど様々な可能性を感じさせることは2025年6月においても変わらないことがデータからも読み取れた。

今後も「VTuber」市場から目が離せないことは間違いない。本記事を読むまで「VTuber」に接しなかった方にも興味を持っていただく機会につながれば幸いだ。

※本記事は各種データ出典に基づき、BunkaCast編集部が再構成し、独自の視点から執筆したものです。

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